interview_002 ケーキのお皿

86400"が販売している商品は、オーダーメイドから生まれた「生活の道具」です。
商品がどのような生活にもとづいて生まれたのか、クライアントへのインタビューを通じて探ります。

ケーキのお皿が必要だった理由

チョコレートの台座に続き、ケーキのお皿をオーダーした86400''代表の山本さんに今回もお話を伺った。前回は山本さんのご自宅でのインタビューだったので、気分を変えるために、屋外で行った。気持ちのいい青空の下で話を伺うことができたのだが、想定外だったのは、ケーキのお皿にケーキが載っていなかったことだ。

「この前ポテトチップスを載せて食べたんですけど、今日はその話もするだろうと思ったので、ポテトチップスを用意しました。ちなみに、ケーキのお皿はケーキ専用ではないので、心配しないでくださいね」

チョコレートの台座が手遊びの道具化していたのと同じように、商品名とは異なる使い方をしている。しかし、このお皿はもともとケーキ以外にも、パンや和菓子を載せることも想定している。かと言って、山本さんのオーダーが、万能なお皿だったいうわけでもない。このお皿が必要だった理由は、人を誘う難しさという課題があったからだ。

「友だちや知人を家に招きたいと思ったとしても、結局は誘わない理由を探して、やめてしまう自分がいるんです。関係が深い人だと、あまり乗り気じゃなくても、誘いに乗ってくれるだろうから、気を遣わせてしまうのも悪いとか。関係がまだ浅い人だと、断られてしまうリスクが高くて嫌だとか」

なかなか面倒な性格だ。後者に関しては、傷つくことを恐れて恋をしない少女のような発言。人を見た目で判断してはいけないことはわかった。ただ、山本さんとは少し違う理由でも、誰かを誘うのは億劫だったり、気恥ずかしかったりする人はかなりいるのではないだろうか。たとえば、何の理由もなく誘うのは身勝手な気がするとか、面白がってもらえそうなプランがないと相手の気持ちを動かせる自信がないとか。誘うのをやめようとしてしまう自分に対して、このケーキのお皿は歯止めになるのかもしれない。

ちなみに、週末を専ら奥様とサッカー観戦をしたり、お出かけしたりして過ごしている山本さん。奥様を誘うときはどうしているのかを聞いてみた。

「それは普通に『今週末どうする?』って聞きますね」

さすが夫婦。余計なことも考えずに、簡単な言葉で済んでしまう。そのシンプルさを他の人に対しても持つことができれば、このお皿は必要がなかったのだろう。考える力を持ってしまった人間というのはつくづく厄介な生き物だ。

どんな反応をするのかを楽しんでいる

世の中には、できるだけ人と関わらずに、ひとりで過ごす時間を楽しんでいる人もたくさんいる。彼らはおそらく生活の中で、誰かを誘いたいと思うことすらないだろう。しかし、山本さんは、彼らとは逆だ。山本さんがなぜ人を誘いたいと思うのかが知りたくなった。

「だって、ひとりで過ごすのは寂しいじゃないですか」

寂しがり屋だった。ただ、あまり納得がいく答えではなかったので、もう少し深く、その真意を探ってみた。

「僕は、昔から人が集まる場所が好きなんです。結婚式や、不謹慎かもしれないですけど、お葬式は、なんとなく気持ちが高揚する。人と話すと、自分の言ったことや考えに対して何らかの反応があって、その反応を見るのが楽しいんです」

やはりただの寂しがり屋ではなかった。山本さんは、人の反応を検証していた。いわゆる人間観察ではなく、その反応によって、自分の考えがどうなのかを確かめている。

「昔から、自分自身を実験台にするのは好きかもしれません。新しいことに飛び込むときは、こんなことしたら他人や自分自身がどんな反応をするのかが知りたくてやっている節があります。たとえば、今住んでいる荒川区の活動に参加しているのも、そのひとつ。僕は、郷土愛と言われる気持ちがあまり理解できないんです。だから、サッカーでも、自分が住んでいる地域のチームだから応援しようということもありません。そんな僕が、消防団のような地域活動に積極的に参加することによって、地元に対する愛情が持てたり、気持ちに変化があったりするのかを試しています」

サイコパスな一面が見えた。でも、すごくよくわかるというのが正直なところだ。多くの人が同じように抱く感情や当たり前とされている事柄も、自分の実感として、しっくりこない。そんな経験は、皆さんにもあるのではないだろか。山本さんは、実験を繰り返している。自分を含めて、一人ひとりの生活を、一人ひとりの本当の気持ちを大切にするために。

もっともらしい言い方をしてみたが、このインタビュー記事を読まれてしまうと、山本さんは今後、人を誘いにくくなるだろう。しかし、人の反応を伺うのが本人の性癖なので、諦めてもらおう。

山本さんが思うオーダーメイドの面白さ

子どもの頃から、人の家に行くのは苦手だったが、人を招くことは好きだった山本さん。ご実家には食器好きお母様が買い揃えたケーキ皿があり、来客時のマストアイテムだったため、山本さん自身にとってもケーキ皿は、生活の道具として、当然家にあるものだった。

「今の戸建てに引越しをしてきたとき、もっと人を招きたいと思って、ケーキ皿を探したんですが、なかなか好みのものがなくて。よくある装飾的なものは嫌なんです。ケーキのお皿なので、ケーキが主役。僕はケーキ自体が美しいと思っているので、ケーキがより美しく見えるようなお皿が欲しくて。あとは、ケーキが倒れないように、底面はフラットなのがいい。でも、シンプルなのが好きかと言われると、そういうことでもなく…」

また面倒な部分が顔を覗かせた。これだけこだわりがあると、好みのものが見つからないのも当然だろう。しかし、今回のケーキのお皿は、山本さん自らデザインをしなかったそうだ。山本さんは要望だけを伝えて、デザインは86400''の志水さんに完全に任せた。すると、志水さんの提案は一発クリア。微調整は必要だったものの、この蓮の葉の形をしたケーキのお皿をいきなり提案してくれたそうだ。

「もちろん、僕の要望を叶えてくれたところも良かったんですが、蓮の葉を模しているところが気に入りました。自然の中で育った志水さんらしさがあったので。自分だけの発想じゃなくて、誰かの発想が入っている。そこにこの商品の価値があると思います」

山本さんが思うオーダーメイドの良さは、自分の思い描いたものをそのまま再現することではなく、つくり手の意思が入ること。86400''にオーダーすることの面白さは、ここにあるかもしれない。彼らならではアプローチで、オーダーする側の予想を心地よく裏切ってくれる。

また、インタビューの際にお皿を手に取ってわかったのだが、このケーキのお皿の側面にくびれがある。参考にしたオオオニバス自体も側面が反っているのだが、このくびれを指で触るのはすごく気持ちがいい。精一杯文章で伝えるのであれば、きめ細かい美しい肌の引き締まったウエストをなぞったときの、少しゾクっとする感じに似ている。なお、これはあくまで比喩であって、性癖ではない。

実際に友だちを誘ってみてわかったこと

「この前、ケーキのお皿を使って、妻がお友だちを家に誘ってくれました。妻とふたりでお皿を磨きながら準備しているときも、招いたお友だちと何を話そうかというような会話を自然にしていたので、準備の時間がその人を思う時間になりました。ケーキのお皿を4枚洗って磨くのに30分。すごく楽しく過ごせました」

このとき奥様が誘われたのは、女性のご友人ふたり。いつもなら何かイベントがあるときに集まるくらいだったため、突然のお誘いに最初は警戒されたそうだ。そのため奥様が、ケーキのお皿という商品をオーダーメイドしたという説明をされたところ、興味を示してくれて、無事にケーキのお皿で人を誘うことができた。

「実際に家に来られてから、最初にお皿を見てもらって、少しだけこのお皿に関する話をしました。でも、皆でテーブルを囲んでケーキを載せて食べているときは、ケーキの話をしたり、近況報告をしたりで、お皿の話を全然しなかったんです。お皿は背景化していて、ちゃんとケーキが主役になっていたんだと思います」

ケーキを食べ終わってから、話題はお皿に戻り、素材や使い方などについて話したそうだ。裏面には、86400''の刻印が入っているのだが、その文字の小ささを女性ふたりが面白がっていたという。つくり手の名前をあまりアピールしないところにも、86400''らしさがある。

一通りお皿について話をしたころに、ご友人がポテトチップスをケーキのお皿に載せたそうだ。縁があるから入れやすかったのかもしれないが、その使い方もさることながら、ポテトチップスを持ってきてくれたことに山本さんは興味を持った。

「ケーキが用意されていることがわかっているから、塩気のあるものを持ってきてくれたんだと思いますが、それが興味深かったです。誰かの家に招かれたとき、手土産を何にするかって、けっこう悩むんですよね。でも、もしかしたら今回は、ケーキのお皿のおかげで手土産を選びやすかったかもしれないなと」

確かに、その可能性はある。もし、ケーキのお皿で人を誘うときに「ケーキがあるから、手土産はいらないよ」と言えば、気遣いを自然な形で断ることができて、お互いに気持ちが楽かもしれない。人を誘うときの心理的な課題を解消するためのケーキのお皿が、誘われたほうの心理的な課題をも解決していたとしたら、とても面白い。

インタビューに伺う前、このケーキのお皿のコンセプトが「人を誘うための器」であると最初に聞かされたときには、気になる女性を家に呼ぶための子犬的なものだろう、少し下衆な想像していたことは、ここだけの話である。

(取材・文:八割計画 北田)

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